請求棄却でも実質的には勝訴なのかな?
昨年3月、東京都から特措法に基づく営業時間短縮命令を受けた飲食チェーンが、違法な命令で損害を受けたとして、東京都を相手に損害賠償を求める訴訟を起こしましたが、
今月半ば、東京地裁で判決があり、時短命令については違法性を認めたものの、損害賠償は認められないということで、原告側の請求が棄却されたようですね。※
まあ、損害賠償請求訴訟で損害賠償が認められなかったわけですから、裁判の勝ち負けで言えば、飲食チェーン側の負け(敗訴)ということだと思いますが、
飲食チェーン側の主張は、損害賠償の請求というよりも、特措法が憲法に適合しているかどうか(法令の違憲性)と、自社に対する時短命令が違憲・違法かどうかの二つで、
少なくとも時短命令については違法性が認められていますので、裁判の実質的な勝ち負けという点では、飲食チェーン側の勝ち(勝訴)ということで良いのではないかという気もしますね。
実際、飲食チェーンが求めた損害賠償額は、104円と非常に少額なので、それが取れたか取れないかはどうでも良い話しだったのだろうと思いますし、
損害賠償請求という形式でないと、そもそも東京都を訴えることすらできなかったと思うので、飲食チェーン側としては、まあまあの結果が得られたということではないかと思います。
ただ、飲食チェーン側の細かな主張を見ていくと、同社に対する時短命令の恣意性(自社サイトで時短命令に従わない意思を示していた同社を見せしめにした)であるとか、
時短命令を出した小池都知事に職務上の注意義務違反があった…といった主張もあり、判決ではそれが認められなかったので、同社にとっては不満の残る結果だったような気がします。
でも、営業の自由や表現の自由といった憲法上の問題(違憲性)が争点になったわりには、随分と早い判決だったような気がしますし、それはそれで良かったのではないかと思います。
訴えた内容が内容だけに、何年もかかって判決が出ても、あまり意味のない判決になってしまうような気もするので、裁判所も早い結審を望んでいたのかもしれませんけどね。
また、時短命令の違法性を指摘した点は、わりと画期的な判断だったのではないかなあという気がしますが、どうでしょうね。あくまでも素人考えですが、
こういった争点については、行政寄りの判決になると思っていたので(行政寄りの判決にしておかないと、時短命令が出しづらくなってしまうと思うので)、ちょっと意外でしたし、
違法と判断した理由も、「要請に応じないから命令をして良いのではない」「感染予防対策などを見て個別の事情があるかの確認が必要」といった、
行政側のハードルを高くするような内容だったので、行政側にしてみれば、相当インパクトのある内容だったのではないかなあという気がします…
というか、「特に必要があると認められるとき」に、「正当な理由がないのに要請に応じない」店舗に限り時短命令を出すなんて、本当に可能なのかなあという気もします。
あと、個人的には、時短命令の恣意性についても認めて良かったのではないかなあと思いますね。時短命令を出した27店舗中、26店舗が訴えを起こした飲食チェーンの店舗なので、
これで恣意性がないというのは、さすがに無理があるような気がしますし、その意味では、小池都知事の注意義務違反も認めて良かったような気もします。
まあ、過去に経験のない出来事が起こっている最中に、初めてすることだったので、そこまで責任を求めるのは酷という話しもあるとは思いますけどね。
それに、当時は専門家の皆さんも、飲食店の時短営業については否定していませんでしたし、むしろ、そうするべきといった意見もあったくらいなので、
行政の責任者ではあっても医療の専門家ではない小池都知事が、そういった専門家の意見に従ったことには、一定の合理性があったと言えなくもないでしょうからね。
法律的な表現で言えば、時短命令は違法だが、それが違法であるとまでは予見できない事情があったのだから、過失(注意義務違反)があったとまでは言えない…ということかな。
でも、時短命令というのは、私権を制限することになるものなので、少なくとも不平等が生じないようにしないといけないと思いますし、その意味で、
不平等と感じさせない程度の説明は必要だったと思うのですけどね。あくまでも自分の印象ですが、当時の東京都の説明は不十分だったと思いますし、
東京都の説明を聞いた飲食チェーン側が、不審や不満を感じたのは当然だろうと思います。もう少し東京都が丁寧かつ理路整然に説明をするとか、
あるいは、逆に、飲食チェーン側の主張をもう少し丁寧に聞いていれば、裁判には至らなかったのではないかなあという気がするのですよね…
といった今回の裁判ですが、飲食チェーン側は判決を不服として控訴するという話しなので、この問題が決着するには、もう少し時間がかかりそうです。
ただ、争点は明確ですし、裁判に必要な資料もすべて揃っていると思うので、控訴審は、一審よりも短い時間で結審するのではないでしょうか。