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2022/05/14

予見可能性と回避可能性

4月23日に発生した知床観光船事故ですが、行方不明の方の捜索や、沈没した遊覧船の引き上げに向けた作業が続く中、第一管区海上保安本部(海上保安庁)が、

 

業務上過失致死や業務上過失往来危険の容疑で、遊覧船の運航会社の事務所や社長宅、事故で亡くなった船長宅の家宅捜索をはじめとした捜査を行っているようですね。

 

まあ、多数の方の命が奪われた事故ですから、運航会社の社長や船長といった、事故の関係者に対する刑事責任の追及は当然だろうと思います。

 

ただ、これは今回の事故に限った話しではないと思いますが、こうした大きな事故の場合、事故に至った経緯などが判明するまでに相当時間がかかることが多いですし、

 

今回の場合もそうですが、生存者の証言が得られない場合もあるので、関係者の刑事責任の追及以前に、事故原因の究明ですら困難を極めることになるような気がします。

 

また、事故に直接関係したわけではない遊覧船の運航会社の社長の刑事責任を追及するには、社長に過失があったことを証明しないといけないと思うのですが、これも難しそうです。

 

今回の事故は、故意に(または未必の故意により)他人の命を奪う殺人とは違って、何らかの予期しない事情によって他人の命が奪われたという事象なので、

 

事故によって人の命が奪われるということが予見可能であり、かつ、事故を回避する措置をとることが可能だったのにそれを怠ったこと(注意義務違反)が証明できないといけないらしいのですよね。

 

具体的には、

 

(1) 事故により人の命が奪われた(結果)

(2) 予見可能な結果を回避する措置を怠った(過失)

(3) 過失と結果に因果関係があった

 

の3つが成立しないと(3つの要件が充たされないと)、業務上過失致死傷罪や業務上過失往来危険罪で処罰することができないということなのだろうと思います。

 

素人の自分からすれば、強風注意報や波浪注意報が発令されていて、近くで漁をしていた漁船も引き上げている中で遊覧船を出航させたことや、

 

万が一の場合の連絡手段である無線や衛星携帯電話が使えない状態だったことからしても、運航会社の社長に過失があったとしか思えないのですが、

 

法律の世界では、「予見可能な結果」(予見可能性)という話しや、「回避する措置をとることが可能」(回避可能性)といった話しがないといけないようですし、

 

それも、注意報が発令されていたのだから事故は予見可能だったはず…とか、連絡手段があれば事故は回避可能だったはず…といった単純な話しではダメなのだろうと思います。

 

ちなみに、今回の事故と同じように、運行会社の社長が業務上過失致死の容疑で捜査された事故に、軽井沢スキーバス転落事故(死者15名、負傷者26名)がありますが、

 

この事故の場合は、事故の発生が2016年1月で、社長が業務上過失致死罪で起訴されたのが、それから5年後の2021年1月。裁判が始まったのが同年10月でした。(今も係争中のようです)

 

そして、この裁判では、起訴された社長が事故を予見しながら防止のための注意義務を怠ったといえるかどうかが争点になっていると言われているようなので、

 

知床観光船事故についても、運航会社の社長が起訴されるにしても相当時間がかかるような気がしますし、裁判になれば、予見可能性と回避可能性が争点になるような気がします。

 

また、今回の事故と軽井沢スキーバス転落事故とでは、社長が業務上過失致死罪に問われているということ以外にも、わりと共通点があるようですね。

 

例えば、知床観光船事故では、旅館業を営んでいた会社が遊覧船事業に参入し、軽井沢スキーバス転落事故では、警備会社を営んでいた会社がバス事業に参入するといった、

 

ともに新規の事業で(事業拡大の中で)事故が起こっていますし、遊覧船の船長は地元出身でなく、知床の海域での操船について経験が浅かったのではないかと言われていますが、

 

バスの運転手も、大型バスの運転には不慣れだったと言われているのですよね。(運転手本人が、運行会社に対して不慣れであることを申告していたらしい)

 

また、遊覧船の運航会社については、杜撰な運営が指摘されていますが、バスの運行会社も、運転手の健康診断や適性診断を怠っていたことで、国交省から行政処分を受けていたようです。

 

そして、船長も運転手も事故で亡くなっているため、事故当時、どのような操船、あるいは運転をしていたのかについて、直接の証言が得られないといった点も共通しています。

 

また、この2つの事故の違いとしては、遊覧船の事故ほうは、社長が運行管理者を兼ねていましたが、バスの事故のほうは、運行管理者が別にいたことと、

 

(今のところですが)遊覧船のほうは船体が調査されていないのに対して、バスのほうは、(事故直後に)車体の調査がされているといったところがありますね。

 

ただ、遊覧船と観光バスという乗り物の違いはあるものの、総じて、乗客の命を預かることを業務としているわりには安全対策が杜撰だったと言えるのではないかと思いますし、

 

その意味では、今回の知床観光船事故も、軽井沢スキーバス転落事故も、起こるべくして起こった事故と言えなくもないような気がします。

 

また、業務上過失致死傷罪の処罰は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金(刑法211)で、業務上過失往来危険罪の処罰は、

 

3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金(刑法129条2項)なのですが、2つの事故とも、結果の大きさからして、この処罰が妥当かどうかといった話しもあるのかなあという気もしますね。

 

 

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