ヒューマンエラー:会社上層部の責任

列車事故で会社の上層部が業務上過失致死傷罪で起訴された事例。

 

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2005年4月のJR福知山線脱線事故は、死者107名、負傷者562名の大惨事でした。この事故で、JR西日本の歴代4人の社長が業務上過失致死傷罪で起訴されました(うち3人は検察審査会の起訴相当の議決による起訴)。

 

■福知山線脱線事故とは

2005年4月25日に、JR西日本の福知山線で起きた列車脱線事故です。制限速度を超えた列車が、右カーブの線路で脱線。線路脇のマンションに激突し、死者107名、負傷者562名の大惨事になりました。運転士が、車掌と輸送指令の無線での会話に気を取られ、ブレーキをかけるタイミングが遅れたことが事故の直接の原因とされています。

この事故で、JR西日本の歴代4人の社長が業務上過失致死傷罪で起訴されました(うち3人は検察審査会の起訴相当の議決による起訴)。なお、事故列車の運転士は、死亡を理由に不起訴処分となっています。

 

■事故の概要

JR西日本の宝塚駅発同志社前駅行き上り快速列車が、福知山線の塚口駅-尼崎駅間の右カーブを走行中に脱線した。

列車の運転士は23歳男性。運転歴は1年弱。事故の調査報告書では、運転士の運転適性と運転技術について、事故の要因となるような異常はなかったと結論づけている。

なお、運転士は過去、100mのオーバーランをして訓告処分を受け、13日間の「日勤教育」と呼ばれる教育を受けている。この日勤教育は、事故の調査報告書の中で、教育というより懲罰的な内容だったと指摘されている。

事故当日は、最初の乗務から2時間程度は正常な運転をしているが、事故列車を始発駅に進入させるところ(進入時は下り回送列車で宝塚駅で折り返し運転)から異常が起きている。

 

01. 速度超過で始発駅に進入。*1
02. 駅手前でATS(自動列車停止装置)の確認ベルが鳴動。非常ブレーキが作動し列車はホーム手前で停止。*2
03. 運転士は、輸送指令への報告が義務付けられている非常ブレーキの復帰操作を無断で行い運転を継続。
04. ホーム停止位置付近で再度ATSの非常ブレーキが作動。結果的にほぼ所定の停止位置で停止。*3
05. 車掌が運転士に声を掛けるが、運転士は何も言わず立ち止まることもなく運転台に移動。
06. 運転士は発車前に列車無線を操作する。*4
07. 9時3分(定刻通り)に発車。
08. 北伊丹駅付近の長い直線で最高速度の120kmまで速度をあげ、遅れを回復しようとする。(回復せず)*5
09. 伊丹駅手前でATSが女性の声で注意喚起。*6
10. 今度はATSが男性の声で速度警告。*7
11. 運転士は強いブレーキをかけ、さらに保安用の予備ブレーキをかける。
12. 車掌がオーバーランすると思い非常ブレーキをかける。運転士も非常ブレーキをかける。
13. 伊丹駅を「72m」オーバーランして停止。
14. すぐに停止位置を直すが、3mほど後退し過ぎて停車。この時点で遅れは1分8秒。
15. 伊丹駅発車後、運転士は車内電話で車掌に連絡。輸送指令への報告に配慮を求める。
16. 車掌、乗客の苦情対応で通話の途中に一方的に受話器を置く。
17. 車掌、車内放送の後、輸送指令に伊丹駅で「8m」のオーバーランと1分半の遅れと報告。*8
18. 輸送指令、無線で運転士を呼ぶ。運転士、応答せず。*9
19. 脱線事故発生。

 

*1 宝塚駅は到着ホームごとに制限速度が違う。
*2 折り返し運転のため、進行方向の先にある信号が赤であることを注意喚起するための通常の動作。
   確認の操作をすれば非常ブレーキは動作しないが、その操作がされていない。
*3 ホームへの進入が遅れたことによる誤出発防止のための動作。(通常なら動作しないもの)
*4 車掌が輸送指令に報告する内容が気になって操作した可能性。(車掌は報告せず)
*5 終点で別な列車と接続するため遅れが許されない。(余裕の少ない運行計画)
*6 停車駅が近づいたことを知らせる通常の動作。
*7 停車駅に近づいたときに速度が速すぎることを警告するもの。(通常なら動作しないもの)
*8 本来はブレーキをかけるタイミングだが、かけていない。無線に気をとられていた可能性。
*9 事故のカーブに差し掛かったころ。応答できる状況ではなかった可能性。

 

 

■当時の状況

1. 事故の因果関係。

事故の直接の原因は、運転士が制限速度を超えた状態で右カーブに列車を進入させたことですが、余裕の少ない運行計画や、運転士が、(日勤教育というある種の懲罰への回避願望から)車掌と輸送指令の無線での会話に気を取られていたことも間接的な原因だったと思われます。

2. 事故を予見できたか。

運転士は、制限速度を超えることの危険性は認識していたと思いますが、このような事故が起こることまで想定できていたかについては疑問を感じます。

一方、福知山線は、96年に起きた函館本線の脱線事故(半径300mのカーブを117Km/hで走行して脱線=今回の事故とほぼ同じ条件)の翌97年に、JR東西線への乗り入れのため、事故現場付近の線路の線形改良工事を行っていますが、(その当時すでに役員だった)起訴された歴代4社長は、96年の事故を教訓として、今回の事故を予見できた可能性もあると思います。

3. 事故を回避する最大限の努力を行ったか。

制限速度を超えて走行した運転士は、責任を免れないと思いますが、事故が起きた区間に、自動列車停止装置などの事故の予防対策が取られていなかった点も、責任を問われても仕方がないと思います。

4. 管理は適切だったか。

余裕の少ない運行計画や、日勤教育というある種の懲罰的な制度は適切でなかったと思います。カーブの手前に自動列車停止装置を設置しておくなど、事故の予防対策もあるべきだったと思います。

 

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この事故は、JR発足後に起きた最も大きな鉄道事故でした。事故の直前に列車が傾いたとの乗客の証言もあることから、脱線事故というよりは転覆事故という表現が実際の状況に近いのではないかと感じています。

事故の概要を見ますと、運転士の動揺した様子が想像できます。運転士は加害者側の人間ですので、責められる立場ではありますが、23歳の若者が命を落とすことになったことは、大変不幸なことだと思います。

 

また、最初の異常であった宝塚駅に進入する際の速度超過は、運転士の勘違いによるものだったのではないかと感じています。

宝塚駅の制限速度は、1番線に進入する場合が65Km/h(下り方面にそのまま進む場合)で、2番線に進入する場合が40Km/h(折り返し運転する場合)だったそうです。この列車は折り返し運転ですから、本来は40Km/hで運転するところですが、勘違いして65Km/hで運転してしまったのではないでしょうか。

そこで、(通常の動作であり)本来なら何事もなく対応できるであろうATSの確認ブザーが鳴動したために動揺してしまい、対応ができずに非常ブレーキがかかってしまう。「報告しなければならないが、報告すれば日勤教育を受けることになるかもしれない」。それがずっと気になったままで運転を続けることになってしまったように思えます。

 

 

人が責任感を持って働けるためには、その前提として安心して働ける環境が必要です。不安におびえるような状況では、決して質の高い仕事はできません。また、責任感を持てる仕事をすることが、仕事の満足感にもつながります。

運転士にとって、自分の職場は安心して働ける環境ではなかったのかもしれません。懲罰的な内容の日勤教育が、安全上も悪い風土を生んだように思えます。

 

 

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